たぶん平穏な日々 その3.5


 明けの明星がその姿を薄くさせる頃、お屋敷の厨房からはトントントン、と小気味の良い音と共に食欲をそそる匂いが漂って来る。
「お姉ちゃん、お魚が焼けましたよ」
 オーブンを覗き込み、焼け具合を確認する。琉奈にみっともない所なんて見せられないから火加減にはいつもよりも注意していたのだ。大丈夫、完璧。
「ありがとう、れつ子ちゃん。れつ子ちゃんみたいに優秀なアシスタントがいてくれるととても助かるわ」
 にこりと微笑む琉奈。
「そんな、あたしなんてお姉ちゃんに比べればまだまだですよ・・・」
 ぽぅっと頬を朱く染め、恥ずかしそうにうつむく。
「そんなことはないわよ。そもそも碧さんなんて起きても来ないんだから」
「・・・起きていますわよ」
 不機嫌そうな声を出しながら碧が入ってくる。いつものことではあるが、寝起き間もない碧は機嫌が悪い。低血圧なのだそうだ。
「お洗濯、終わりました」
 碧とは対照的に、弾むような声で入ってきたのは凛である。その後ろに莉来が続く。いつもとなんら変わらないようでいて、でもほんの少しだけ違う二人。例えるならば、一歩近寄っただけのような、それくらいの違い。
「玄関の掃除、終わったよ」
「二人とも、ご苦労様。ほら、碧さんがぼへーっと寝ている間にみんなはちゃんと働いていたんですよ。そんな不機嫌そうな顔をしていないで、しゃきっと起きてくださいね」
「・・・随分とご機嫌ですわね」
 ご機嫌、と言うよりも浮かれている感が強い。
「昨夜お二人がなにをしていたのかは存じませんけれど、随分とよろしかったようですわね」
 碧の言葉に琉奈とれつ子は真っ赤になり、急に落ち着きが無くなる。
「ななななななにを言っているんですか碧さんっ」
 平然と見返し、意地の悪い笑みを浮かべる碧。「あら、わたくしはただ、随分と仲がよろしかったようですわね、と言っただけですわよ。なにをそんなに慌てていらっしゃいますの?」
「〜〜〜っ! れつ子ちゃん、すみませんがご主人様を起こして来てもらえませんかっ!?」
 付き合いきれないとばかりに碧から視線を外し、れつ子に向き直る。びくり、としてれつ子が顔を上げる。
「あ、はい。判りました」
「お待ちなさい」
 とてとて、と厨房を出ようとするれつ子を碧が制止する。その声に含まれた鋭さに、思わず全員が碧に注目する。
「あ、いえ、ご主人様はわたくしがお起こしいたしますから、れつ子さんは琉奈さんと一緒に朝食の準備をしていてくださいな」
 おほほほほ、と妙に白々しい笑い声を上げる。
「凛お姉ちゃんもついて行って」
 何を思ったのか、莉来が凛の背中を押して碧の進路を阻む。
「莉来さん?」
「碧っちはなにかヘンなこと考えてる」
 莉来の言葉にギクリとする碧。
「えぇっと・・・」
 凛は頤に指を当て、小頸を傾げて考え込む。
「・・・え、でも、まさか・・・?」
 莉来に問うような視線を送るが、莉来は黙って頷くだけであった。
「多分、凛お姉ちゃんの考えていることで合ってる」
「な、なんのことかしら。おほほほほっ」
 口元に手を当て、お嬢様笑いで誤魔化そうとするが、凛と莉来の冷ややかな視線の前にはさしたる効果は無かった。
「どうかしたんですか?」
 前日のゴタゴタを知らない琉奈とれつ子はきょとんとするばかりだ。
「な、なんでもありませんのよ。それじゃ、わたくしはご主人様をお起こしして来ますわね」
 そそくさと足早に立ち去る碧。
「凛お姉ちゃん」びしっと碧を指差す。「ゴー」
「わんっ♪」
 犬のような声をあげて碧に続く凛。
「えっと・・・なにか、あったの?」
 どうにも話の見えない琉奈とれつ子。判らない方が身のためではあるが。
「大したことじゃないよ。それに、知らない方がいいってこともあるし、ね」
 意味ありげな台詞をそれこそ大したことではないとばかりにさらりと言い放ち、くんくん、と鼻を鳴らす。
「琉奈っち、焦げてる」
「え? あ、きゃあっ!」「お姉ちゃん、たいへんっ」
 わたわたと焜炉に駆け戻り、急いで火を止める。
「ふぅっ。───それで、莉来ちゃん。知らない方がいいって・・・あ、いない」
 いつの間にか姿を消している莉来であった。

 カーテンの隙間から差し込む朝日がぼんやりと部屋の様相を浮かび上がらせる。豪奢ではないが品良く整えられた部屋だ。ひとつひとつの調度品が主のシュミの良さを物語っている。
 すかーすかー、とお気楽そうな寝息が部屋の空気を震わせる。
 ご主人様は未だ夢の中であった。
「ご主人様、起きてくださいませ」
 ゆさゆさ。
「ご主人様? あぁ、朝のご挨拶をしなければ起きてくださらないのですね?」
 いそいそとエプロンを外し始める碧。それをくいくい、と凛が引っ張る。
「碧さん、なにやってるんですか」
「決まっているでしょう、ご主人様をお起こしするのですわ」
 判りきったことを聞くなとばかりに凛の手を引き離す。
「・・・凛さんも、したいのですか?」
「えっ? そそそんなことはありませんけど・・・」
 頬を朱に染め、胸の前でわたわたと手を振る凛。しかしそんな凛の手首を掴み、ぐいと引き寄せる。
「本当のことをおっしゃいなさいな」
 凛の耳朶に朱唇を寄せて囁く。凛のふくよかな胸にそっと手を伸ばし、いきなりぎゅっと揉みしだく。
「あうっ」
 いきなりの痛みに苦悶の声をあげる。
「あら、凛さんはこうされるのがお好きだったのではないかしら?」
 くすくすと嘲るように笑う碧。そうしている間も凛の胸を捻り、捏ね、弄ぶ。
「・・・あ・・・はふ・・・ぅ・・・」
 凛の息に恍惚の色が混ざり始める。
「まぁ、本当にいやらしい人ですわね。そんな人にはお仕置きが必要だとは思いません?」
「そ、そんな・・・私、いやらしくなんか・・・」
 薄紫色の瞳を潤ませ、それでもなけなしの理性をもって抵抗する。
「あら、そうですの?」
 素早く凛のスカートの中に手を潜り込ませ、その奥の湿地に侵入する。
「これでも、まだそんなことを言えますの?」
 引き出された碧の指先には白く糸を引く粘液が絡み付いていた。
「こんなに濡らしているくせに・・・ほら、お舐めなさい」
 粘液で濡れ光る指を凛の口の目の前に突き出す。おずおずと、凛の舌が碧の指に絡みつく。ぺちゃぺちゃと淫猥な音が響き、朝の清浄な空気を澱ませる。
「・・・はぁ・・・ぁ・・・私はいやらしい子です・・・どうか・・・お仕置きを・・・してください・・・」
 がくりと膝をつき、荒い息を洩らす。
「だ、そうですわよ、ご主人様」
 意地の悪い笑みを浮かべ、起きるに起きられなかったご主人様に振る。
「気付いていたのか・・・」
 のそり、と起き上がる。股間のモノは朝だからというだけでは説明がつかない程に膨れ上がっている。
「ふふっ、ご主人様のことならなんでもお見通しですわよ」
 すっ、とご主人様に撓垂れかかり唇を重ねる。
「むぐっ───ぷはっ、こら碧・・・って、おい、なにしてるんだ」
 慌てるご主人様の前で、碧はするするとスカートをたくし上げる。眩しいばかりに白い肌が目に焼き付く。
「ご主人様・・・」
 はちきれんばかりに膨張した陽物に手を伸ばし、そっと擦る。
「お、おい、碧・・・」
 既に見られたことがあるとは言え、さすがに恥ずかしい。
「凛さん」
「あ、はい・・・」
 皆まで言わせず、凛はご主人様の夜着をはだけさせ、陽物を露出させる。
 まさに強直と言ってよいそれは既に見慣れた筈の凛でさえ驚く程に屹立しており、それを見つめる凛の目には陶然とした色が浮かんでいた。
「失礼致します」
 そっと口に含み、舌を這わせる。ゆっくりと顔を前後に動かし、口と舌の両方で陽物を愛しむようにねぶる。ぴちゃぴちゃと湿った音が響き、非現実的な空間が現出する。
 陽物は凛の唾液にまみれ、また自ら沁み出した粘液によってしとどに濡れそぼり、びくびくと脈動していた。
「凛さん、もういいですわ」
 碧の言葉に、凛がおあずけをくらった犬のような表情を見せる。
「貴女はそこで見ていなさい。それがお仕置きですわよ」
 碧は自らパンティーを下ろすと、ご主人様の上に跨り、その強直を自らの内に招き入れた。
「・・・くっ・・・」
 僅かな抵抗があり、ぶつん、となにかが裂ける感触があった。碧とご主人様の結合部から赤い糸が流れ出し、二人の腿を赤く濡らしてゆく。
「碧、おまえ・・・まさか」
「はぁ・・・ご主人様・・・」
 碧が喜びの涙を流す。
「わたくしの初めてをご主人様に捧げることができて、とても嬉しゅうございますわ」
 痛みを堪えるかのように、碧はご主人様にしがみつく。
「碧・・・」
 愛しさを覚え、碧の唇を奪う。舌で碧の唇をこじ開け、やや乱暴に口腔を犯してゆく。
「あぁ、ご主人様・・・」
 歓喜の声を上げ、碧も応じる。二人の舌が、まるでそれ自体がひとつの生物ででもあるかのようにお互いを求め、絡み合う。唾液が糸を引き、二人を繋ぐ。
 それを見守る凛の手が自らの秘所に伸び、熱く湿ったクレヴァスに指を這わせる。陰核はすでに勃起して赤く充血しており、僅かに触れただけで全身に痺れが走る。そろそろとスリットを擦ると、それだけで淫水がとろとろと溢れ出し、糸を引く。
「あらあら、凛さんったらはしたないですわよ。でも、見ているだけというのも可哀想ですわね。・・・そうですわ、ご自分で慰めなさいな。あさましいメス犬の姿を曝け出すとよろしいですわ」
 碧の嘲りも、今の凛には快感を増すだけのものであった。もとより被虐傾向の見られる凛ではあったが、異常とも言える状況が拍車をかけていることは間違いあるまい。
「・・・あぁ・・・私のいやらしい姿を・・・どうか御覧になってください・・・」
 それだけを言うと、もはや我慢しきれずに自涜を始める。左手で豊かすぎるほどの胸を揉みしだき、右手は二本の指を揃えてを熱く蕩けたクレヴァスに挿入させる。にちゃにちゃと淫情を催す音を立てて何度も出入りを繰り返す。
「は・・・うふぅ・・・あ・・・ん」
 涎を垂らし、快楽に浸るその姿は煽情的と言うよりももはや淫猥であり、普段の凛の姿からは到底信じられない有様であった。しかし、それでいながら抹の清楚さが残っており、そんな姿を見ているとその最後のひとかけらさえも壊し、踏み躙りたくなる欲望を覚える。
「さぁ、ご主人様、わたくしたちも楽しみましょう」
 ご主人様の首に腕を回し、再び唇を貪り合う。ご主人様の手が碧の豊満な胸を揉み、腰をゆっくりと動かし始める。
「うっ・・・く・・・」
「碧、痛いのか?」
 痛くないわけはない。しかし碧は健気にも笑顔を見せてかぶりを振る。痛みよりも愛する人とひとつになれた喜びの方が大きいのだ。
「大丈夫ですわ。ご主人様のお好きなようになさってくださいませ」
 ご主人様の腰の動きに合わせるように、碧も少しずつグラインドさせてゆく。
「ご主人様のが・・・擦れて・・・んっ・・・気持ち・・・いい・・・ですわ・・・」
 恍惚とした表情を浮かべて自ら腰を使い始める。半ばめくれ上がったスカートの下から湿った音が洩れ、淫水が糸を引いて瀝り落ちる。
「なら、もっと良くしてやらないとな」
 悪戯っぽく笑い、さらに深いところまで強直を打ち込む。
「───!」
 碧の白い喉が仰け反り、声にならない悲鳴をあげる。
「まだまだ、こんなものじゃ済まさないぞ」
 腰を引くと深々と突き刺さった陽物がずるりと引き出され、碧の内臓ごと持っていかれそうになる。完全に引き出されぬうちにまた、深く打ち込む。
 凄まじいばかりの官能の波が碧を襲い、頭を真っ白にさせる。激しい快楽が全身を蕩けさせ、なにも考えることができない。
「あぁっ・・・ご、ご主人様っ・・・凄いっ・・・」
 激しいピストン運動に、碧の理性もまた壊されてゆく。淫情に染まりきった瞳はとろりとしてもはや焦点も定かでない。
「ふむ・・・」
 碧の足首を掴み、股を大きく開かせる。
「凛、見えるか?」
 スカートを捲り上げ、結合部を凛の眼前に曝す。碧の膣に陽物が深々と突き刺さり、てらてらと淫水で濡れ光っている。
「あぁ、見ないで・・・」
 口ではそう言うものの、碧は見せ付けるかのように腰を動かし続ける。そのたびに淫水が瀝り、いやらしい音を立てる。
「綺麗です、碧さん・・・」
 陶然と見つめる凛。ふらふらと近付き、結合部に舌を這わせる。とめどなく瀝る淫水を音を立てて啜り、嚥下する。
「ふふ、いいぞ、凛。どうだ、美味いか?」
 凛を見ているとどうしても嗜虐的な気分を抑えることができなくなる。徹底的に壊し、蹂躙の限りを尽くしたいという暗い欲望がマグマのように湧き上がってくる。
「はい、とても美味しいです・・・」
 頬を朱く染め、恥ずかしそうに答える。
「くっくっくっ、そうか、美味いか。───だ、そうだが、どうだ莉来。おまえも飲んでもらうか?」
「莉来さん!?」
 驚き、振り返る。そこには冷たい目で見つめる莉来が、確かに、立っていた。
「また、そんなことしてるんだ」
「あ・・・莉来・・・さん・・・」
 びくりと身を縮め、身体を隠す凛。今更そんなことをしても滑稽なだけなのだが、そうせずにはいられなかったのだ。
 莉来はつかつかと凛に近寄り、ぐい、とその腕を掴む。
「ふん、いやらしい女」
「莉来さん・・・」
 哀願するような凛など意にも介さず、とん、と押し倒す。
「そんなにもいやらしいことが好きなんだ」
「そ、そんな・・・私は・・・」
 なにを言っても言い訳にしかならない。それが故に、その先を続けることができなかった。
「ほら、好きなんでしょ。だったら───舐めてよ」
「え?」
 何を言われたのか判らなかった。しかし戸惑う凛の前で莉来はするするとスカートをたくし上げてゆく。
「莉来さん?!?」
 スカートの下にはなにも身に着けておらず、無毛の恥丘から凛は目を離すことができなかった。
「舐めて」
 静かな、しかし反論を許さぬ声だった。凛は誘われるままに、戦慄きながら莉来のスリットにおずおずと舌を伸ばしてゆく。
「あぁ、莉来さん・・・」
 凛の舌が触れた途端、莉来の身体がびくりと震える。
「莉来さん、莉来さん、莉来さん・・・」
 夢中で舌を這わせ、スリットに捩じ込ませる。愛しさのあまりに気が狂いそうだ。
 莉来のスリットにも粘るものが滲み始め、凛はそれを一滴たりとも残すまいとするかのように口全体で啜り取る。
「んっ…凛お姉ちゃん…あたしの…美味しいの?」
 凛は答えることもできず、ただ夢中で舌を使い続ける。
「くすくす…いやらしいんだ…」
 ぶるっ、と莉来の身体が震える。
「ん…ちょっと…出そうかも…。凛お姉ちゃん…残さず飲んでね…」
 意地の悪い笑みを浮かべ、細い指で自らのスリットを広げる。
「え…? 莉来、さん…?」
 訊き返す間も無く、莉来のスリットから黄金色の透明な液体が迸る。それは凛の顔を、胸を、湯気を立てながら濡らしてゆく。
 凛は口を開け、その黄金色の液体を受け入れる。こくり、こくりと喉が鳴り、凛の中に沁み込んでゆく。少し苦く、塩気の強いそれはとても飲み易いとは言い難いものがあり、嘔きそうになるのを堪えなければならなかった。
 次第に液体の勢いが収まり、雫が垂れるだけになると、凛はスリットに口をつけ、残っている分までも吸出し、音を立てて啜り取る。
「んんっ…やっぱり、凛お姉ちゃんって…いやらしいんだ…くすっ」
「そんなこと…言わないでください…」
 莉来のスリットから口を離し、悲しそうに見上げる。その頬には先程の液体とは違うなにかが一筋の跡を残していた。
「凛お姉ちゃん?」
「私は、誰に辱められようと構いません。私の貞操など高が知れていますから。でも、莉来さんには…莉来さんにだけは軽蔑されたくないのです…」
「あははっ、莫迦なこと言わないでよっ。マゾで淫乱だなんて、それで軽蔑されないわけないじゃないっ」
「り・・・莉来・・・さん・・・」
 凛の瞳が絶望に染まる。
「でもね」
 莉来の手が優しく凛の頬に触れる。
「あたしは、気にしないよ。だって、凛お姉ちゃんは凛お姉ちゃんだもの」
「莉来さん・・・?」
 くすり、と笑う莉来。それはとても優しい笑みであった。
「とってもいやらしくて、とってもやさしくて、とってもあたしを好きでいてくれる・・・それが、あたしの凛お姉ちゃんだから」
「莉来・・・さん・・・」
 凛の瞳から滂沱と涙が零れ落ちる。
「あぁ、もう、とっても泣き虫さんでもあるんだね」
 莉来は凛の頬にくちづけし、涙を舐めとっていく。そのまま、唇まで。
「莉来・・・んっ・・・」
 かちりと眼鏡のフレーム同士が軽い音を立て、莉来の唇が凛のそれを奪う。涙と聖水で濡れた舌で凛の唇を押し開き、ゆっくりと侵入を開始する。ちろちろと舌先でつつき、反応を楽しむ。熱い吐息がどちらからともなく洩れ、ねっとりとねぶるように舌を絡ませあう。
「どうやらあちらは一件落着なようだな」
 ゆっくりと碧の中を出入りしながらご主人様が安堵の声を洩らす。やはり人間関係は円満であるに限る。
「・・・ご主人様、凛さんばかり見ていられては嫌ですわ。今はわたくしだけを見てくださいませ」
 いつの間にか碧のメイド服は全て脱がされており、その豊満な肢体をご主人様の眼前に曝け出している。完璧な美というものがあるのなら、今の碧こそそう呼ぶに相応しかっただろう。毫ほどの傷ひとつない珠玉の肌はほんのりと上気して桜色に染まり、緑色の髪は湿気を帯びて艶やかさを増している。それになにより、ご主人様に愛されたという自負がその気高さをより高みへと昇らせていた。
「ご主人様、わたくしは、ずっとご主人様だけのものですわ・・・」
 ご主人様の胸板に顔をそっと押し当て、囁くように誓う。
「ずっと、ずっと、なにがあろうともご主人様の御側を離れませんわ。ご主人様こそがわたくしの全て。永遠に、愛していますわ・・・」
「碧、こんな僕でもいいのなら、ずっと側にいて欲しい。まぁ、いろいろあるかも知れないけどさ、僕も碧を愛しているよ」
 いろいろ、の部分に引っかかるものを感じないわけでもないが、「愛している」の一言だけで全てが許せる気分であった。
「ご主人様、碧を愛してくださいませ」
 ご主人様の乳首に舌を這わせ、円を描くようにちろちろと動かしてゆく。乳首は女だけでなく、男にとっても性感帯のひとつである。そこを執拗に舐め、噛み、弄ぶ。
「くっ、碧、どこでこんなことを・・・」
「いい女には秘密が多いものですわよ」
 ふふっ、と含むような笑い声をあげる。実際のところはレディース誌のえっち特集記事を読んだだけなのだが、上手にできているようだ。
「碧、もういい。今度はこっちの番だ。泣かせてやるぞ」
 陽物を引き抜き、碧をうつ伏せに倒す。碧の秘所は既に蕩けており、ご主人様のモノを欲しがってとろとろといやらしい汁を垂らしている。
「後ろから突き刺してやる」
 陽物を膣口に押し当て、一気に貫く。
「あぁっ! ご主人様ぁっ!」
 碧の声が歓喜に震える。
 ご主人様が陽物を叩き付ける度にぱん、ぱん、と乾いた音が次第に湿り気を帯び始め、ずちゅっ、ずちゅっと淫らな音に変わっていく。
 猛り狂うモノを何度も、何度も、激しく叩き付ける。碧は息も絶え絶えになり始め、深いエクスタシーを感じているようだ。
「ごっ・・・ご主人・・・様・・・わたくし・・・わたくし・・・もう・・・!」
「ああ、僕も・・・そろそろ・・・」
 二人は同時に登りつめてゆく。
「あぁ───っ!」「くぅっ!」
 二人は同時に達し、碧の中に熱い粘液がどくどくと放出される。
「はぁ、はぁ・・・」「はぁ・・・ふ・・・」
 しばらくの脱力感の後に、ご主人様が碧の中からずるりと引きずり出される。それはやや硬度を失ってはいたが、未だ充分な硬さを保っていた。
「良かったぞ、碧」
 碧の頭に触れ、優しく撫でる。お互いの愛を確かめ合った充足感がある。碧はぐったりと倒れ伏し、穏やかな表情でご主人様を見つめている。
「碧っち、邪魔」
 どん、と碧を突き落とし、莉来が入れ替わりにベッドに上がって来る。
「ほら、凛お姉ちゃんも来るの」
 くいくい、と手招きをする。
「莉来さん、本当にするんですかぁ?」
「凛お姉ちゃんに選択権があると思ってるの?」
 あるわけがない。凛にとって莉来の言葉は絶対なのだから。
「・・・はい。旦那様、失礼致します」
 淫水と精液でどろどろになっている陽物を銜え、綺麗にしてゆく。そこへ莉来が加わり、二人がかりでご主人様の陽物に舌を這わせ始める。
「り、凛ちゃんに、莉来!?」
 驚き、それ以上の言葉が出せない。莉来の舌使いはたどたどしく、かなりぎこちないものであったが、それがまた情欲を掻き立てる。
「ちょっと莉来さん、貴女なにをしていますの!?」
 ベッドの下から復活した碧が激昂して喚き立てる。ちゅぱっと音を立てて陽物から口を離す莉来。
「碧っちばかり、ずるい」
 ニヤリと笑い、「あたしと凛お姉ちゃんもご主人様に愛してもらうの」
「ななななな、なんですってぇっ!?」
「あ、ちょっと違うのかな。あたしとご主人様で凛お姉ちゃんの初めてをもらうの。碧っちはそこのバイブを取って」
 なぜバイブがあるのか、と疑問に思うご主人様。まさか莉来が用意していたとでも言うのだろうか。怖い考えになりそうで、ぶんぶんと頭を振って妄想を振り払う。
「くすくす、覚悟してね、凛お姉ちゃん」
「あのぉ、莉来さん、やっぱりやめませんか・・・? 莉来さんに初めてをもらっていただけるのは嬉しいのですが・・・その・・・」
 ちら、とご主人様を見る。かぁっと朱くなり、俯いてしまう。そんな凛の姿に、ご主人様の硬度がぐんぐんと回復してゆく。
「駄目。ご主人様もやる気充分みたいだから。───ね?」
「なんでこっちに振るんだ!?」
「ほら、凛お姉ちゃん、脱いで」
 振っておいて、無視をする。
「うぅ、判りました・・・。くすん」
 涙目になりながらも莉来の命令には逆らえず、するすると服を脱ぎ捨ててゆく。碧ほどのボリュームと華麗さはないが、清楚で儚げな佇まいがある。
「あの、旦那様・・・恥ずかしいのであまり見ないで欲しいのですが・・・」
 胸と秘所を手で隠してはいるものの、基本的には一糸纏わぬあられもない姿である。恥ずかしくないわけがない。
「凛お姉ちゃん、手を下ろして。ご主人様に全部見せるの」
 莉来は非情だった。
「莉来さん・・・ふにゅぅ〜ん」
 観念してそっと手を下ろす。細身ではあるが、肉付きが悪いというわけではない。ことに胸の発育具合は素晴らしく、目を惹きつけてやまない。腰は抱いたら折れるのではないかと思われるくらいに細く、そこからやわらかな曲線を描いて臀、そして腿へ続く。透けるように白い肌は薄暗がりの中で輝いているような錯覚さえ覚えるほどだ。
「凛ちゃん、綺麗だ…」
 ご主人様の言葉に凛は頬を朱らめ、碧は非難がましい目をご主人様に向ける。莉来はと言えば、碧から手渡されたバイブのスイッチを入れてうにうにと蠕動させている。
「旦那様…」
 ご主人様に躙り寄り、その胸に身を預ける。やわらやかな感触と香りがご主人様の頭をくらくらさせ、何時しか、凛を抱きしめていた。先程まで感じていた嗜虐的な気分は消え去り、今は逆に守りたいような気持ちで一杯だった。
「ご主人様ぁ…」「凛お姉ちゃん…」
 碧と莉来が不満そうな声をあげる。
「凛ちゃん…」「旦那様…」
 二人の唇がそっと重なる。ご主人様の手が凛の胸をまさぐり、凛の手がご主人様の陽物を優しくしごく。
「旦那様の…とても熱い…」
「凛ちゃんのせいだからな。鎮めてくれよ」
「…はい。それでは失礼致します」
 ご主人様の陽物を口に含みかけた時、「待った」と止められる。
「凛ちゃんの中に、入れたいな」
「え? そ、それはもしかして…その…私とお交わりに…と言うことでございましょうか…?」
「まぁ、そう言うことだが、嫌かい?」
 ちょっと苦笑して、ぽりぽりと頭を掻く。
「いえっ、その、嫌ではありませんが…その…私は…まだ…」
 顔を真っ赤にして俯く。
「そう言えば、凛ちゃんて…処女?」
 こくん、と頷く。途端に、ご主人様の陽物が天を突く勢いで屹立する。
「ご主人様、なんですのその反応は!?」
 ただでさえツリ気味の目を更に吊り上げて碧がいきり立つ。
「いや、こうも初々しい反応をされると…こう、萌えると言うか、なぁ?」
「なぁ? じゃ、ありませんわ!」
 がしっと莉来の手からうねうねと蠕動を繰り返すバイブを奪う。
「おほほほほっ、そうですわ、わたくしがご主人様の処女をいただいてさしあげますわ。おほほほほ…」
 ゆらぁり、と近寄って凛を押し退ける。
「ま、待て、碧。おまえ、目が座ってるぞ」
「おほほほほほほほ・……」
 バイブをべろりと舐め上げ、ご主人様に躙り寄る。
「覚悟してくださいな?」
 バイブの先端を菊座に押し当てる。
「じょ、冗談はよせよ…な?」
 蛇に睨まれた蛙の如く、動くことができない。碧の目は冗談を言っているようには見えず、まさに絶体絶命のピンチだった。
「旦那様っ!」
 助けようとする凛の手が何者かに掴まれる。
「莉来さん…お助けしないのですか?」
 莉来はゆっくりとかぶりを振り、
「ご主人様にはちょっとお仕置きが必要なんだよ。───碧っち」
「おほほほほほっ」
 めりっ。
「───!」
 声にならない絶叫が響き渡った。

 カーテンの隙間から差し込む朝日がぼんやりと部屋の様相を浮かび上がらせる。豪奢ではないが品良く整えられた部屋だ。ひとつひとつの調度品が主のシュミの良さを物語っている。
 うーん、うーんと寝苦しそうに何度も寝返りをうつ。
 ご主人様は未だ夢の中であった。
「ご主人様、起きてくださいませ」
 ゆさゆさ。
「ご主人様? あぁ、朝のご挨拶をしなければ起きてくださらないのですね?」
 いそいそとエプロンを外し始める碧。それをくいくい、と凛が引っ張る。
「碧さん、なにやってるんですか」
「決まっているでしょう、ご主人様をお起こしするのですわ」
 判りきったことを聞くなとばかりに凛の手を引き離す。
「・・・凛さんも、したいのですか?」
「えっ? そそそんなことはありませんけど・・・」
 頬を朱に染め、胸の前でわたわたと手を振る凛。寝返りをうつご主人様の股間は朝だからと言うだけでは説明できぬほどに大きくなっており、正視することができない。
「でも、寝苦しそうですし、悪い夢でも見てらっしゃるのではないでしょうか」
 それもそうですわね、と納得し、服を整える碧。
「ご主人様、起きてくださいまし、ご主人様」
 ゆさゆさ。
「ご主人様!?」
「うわっ」
 悲鳴をあげて飛び起きる。と、碧と視線が合った。
「うわーっ! 僕が悪かった! だから許してくれーっ!」
 ベッドから飛び出し、床に頭を擦り付けんばかりに平伏する。なぜか片手を尻に当てているのが不思議であった。
「ご主人様っ!?」「旦那様っ!?」
 あまりといえばあまりのことに、どうしたらいいのか判らない二人。
「…え?」
 きょろきょろと辺りを見回し、視線を自分と碧、凛の間を何度も往復させる。
「…え?」
「え? じゃありませんわ。どうなさったのですか?」
 心配そうに近寄る碧。
「悪い夢でも御覧になっていたのですか?」
「…夢?」
 だんだん判ってきた。
「夢だと?」
 そうそう。
「…また、夢オチだとーっ!?」
 ほっとけ。


…to be continued?


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